商業登記において代表取締役等住所非表示措置が本日より可能になりました

1. 代表取締役の住所記載制度の背景とその不都合

株式会社の代表取締役は、会社法の規定に基づき住所を登記することが原則として求められています(会社法第911条第3項第14号)。

会社法第911条第3項 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。

十四 代表取締役の氏名及び住所

その結果、登記事項証明書等を取得すれば、誰でも代表取締役等の住所を確認することが可能でした。

しかし、インターネット・SNSの普及等により代表取締役の住所が公開されることで、住所を起業することへの抵抗感から企業を躊躇したり、ストーカー等の被害、過度な営業行為の誘発等につながるということから、プライバシーの保護を求める声が年々高まってきました。

そこで、プライバシー保護をはかり、安心して業務を行うことができるようにするため、商業登記法等を改正して代表取締役等住所非表示措置が創設され、令和6年10月1日に施行されました。

2. 代表取締役等住所非表示措置の意義と内容

従来の登記情報

従来の登記情報では代表取締役の氏名及び登記事項の記載が要求されていたため、登記情報には以下のように掲載されていました。

役員に関する事項東京都世田谷区○○一丁目1番1号
代表取締役 田中 太郎

これが住所非表示措置により以下のようになります。

役員に関する事項東京都世田谷区
代表取締役 田中太郎

お判りだと思いますが、世田谷区以下の住所が記載されていません。

この場合、代表取締役の住所を特定することは困難となり、ストーカー被害などにあう確率は、住所を記載されていた時と比べてかなり低くなるといっていいでしょう。

代表取締役等住所非表示措置を開始するための要件

代表取締役等住所非表示措置を開始するための要件は以下の通りです。

  • 登記の申請と同時に申し出ること(代表取締役等の住所が登記すべき事項となっている場合⦅設立登記や代表取締役の就任登または重任登記等⦆に限られます)(商業登記規則第31条の3第1項本文)。
  • 所定の書面を添付すること

上場会社である株式会社の場合(商業登記規則第31条の3第1項第3号)

所定の書面については、上場会社と非上場会社において異なるものとされています。

まず、上場会社では「株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面」が必要となります。

具体的には、代表取締役等住所非表示措置の申出をする株式会社の上場に関する情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等がこれに該当します。

また、この場合は、株式会社の称号に加え、設立年月日や代表取締役の氏名などすでに登記されている事項と同じ内容が記載されているものである必要があります。

非上場会社の株式会社の場合(商業登記規則第31条の3第1項第1号)

非上場会社の株式会社の場合は、以下の書面の添付が求められています。

  • 株式会社が受取人として記載された書面が、本店の所在場所に宛てて配達証明により送付されたことを証する書面等
    • なお、この場合配達証明に記載された株式会社の商号又は本店所在場所が登記事項と一致する必要があります
  • 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書
    • 住民票の写し
    • 戸籍の附票の写し
    • 印鑑証明書など
  • 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

株式会社の本人特定事項を証する書面について

この中で、株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面については「わからない」という方が多いと思います。

そこで説明しておくと、本人特定事項を証する書面というのは以下のものです。

  • 登記の申請を受任した資格者代理人である司法書士または司法書士法人が犯罪による収益の移転防止に関する法律の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し
  • 実質的支配者の本人特定事項についての供述を記載した書面であって公証人法の規定に基づく認証を受けたもの
    • 住所非表示措置と合わせて登記の申請の日の属する年度またはその前年度に認証を受けたものに限る
    • 記載事項として、実質的支配者の氏名、住居及び生年月日が必要
  • 公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)の規定に基づき定款認証に当たって申告した実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書
    • 代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請が当該株式会社の設立の日の属する年度又はその翌年度に行われる場合に限る

なお、株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は添付は不要となります。

実際に登記申請をする場合は、こういった感じになります。

登記の事由 代表取締役の変更

登記すべき事項 令和6年10月1日次の者就任

        東京都渋谷区○○一丁目1番1号

        代表取締役 山本一郎

登録免許税 金○○万円

添付書類 取締役会議事録 1通

     代表取締役山本一郎の就任承諾書 1通

     印鑑証明書 1通

     委任状 1通

上記の通り申請します。

下記の者につき、代表取締役等住所非表示措置を講ずるよう申し出ます。

なお、申し出るにあたって、

株式会社が受取人として記載された配達証明書及び郵便物受領書

印鑑証明書

を添付します。

また、実質的支配者情報一覧の保管および交付について△△法務局△△支局に申出済みです。

資格 代表取締役

住所 東京都渋谷区○○一丁目1番1号

氏名 山本一郎

3. 注意すべきこと

改めて代表取締役等住所非表示措置の申出が必要となる場合

本店移転や代表取締役の重任があった場合でも、住所非表示措置を講じられている代表取締役の住所が同一の場合は、改めて代表取締役の住所非表示措置を申し出る必要はありません。

一方で、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役が、住所を変更した後に代表取締役の重任登記などをする場合は、改めて住所非表示措置の申出が必要となります。

代表取締役等住所非表示措置の終了について(商業登記規則第31条の3第4項)

代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があった場合

この場合は、代表取締役等住所非表示措置を希望しない申出書を提出する必要があります。

株式会社の本店所在地において実在性が認められない場合

代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社が、本店の登記上の所在場所に実在しない可能性が高いと思慮される場合、登記官が株式会社の本店に宛てて通知を送付し、一定の期間内に返送等がない場合は、代表取締役等住所非表示措置を終了させます。

上場会社でなくなったと認められる場合

代表取締役等住所非表示措置を講じた株式会社が、株式譲渡制限の定めをすることにより非公開会社となった場合は、代表取締役等住所非表示措置を終了するものとされています。

もっともこの場合であっても、非公開会社となった株式会社が、代表取締役等住所非表示措置の申出をした場合は、引き続き代表取締役等住所非表示措置が継続されます。

閉鎖された登記記録について復活すべき事項があると認められる場合

清算決了の登記を行い閉鎖されたものの、生産未了の財産があることが明らかになった場合は、代表取締役等住所非表示措置を終了させます。

4.まとめ

本日は令和6年10月1日です。

ちょうどこの日に施行されることとなる、代表取締役等住所非表示措置について記事を書いてみました。

なお、この記事でよくわからないことがある場合は、登記に関しては司法書士に相談することをお勧めいたします。

この記事を書いた人