所有権登記名義人表示変更登記について

もうじき司法書士会の研修が始まります。

試験が終わってから、知識が抜け落ちているため復習を兼ねて今回は名変登記について書いてみたいと思います。

目次

所有権登記名義人氏名、住所変更登記の義務化について

所有権登記名義人氏名、住所変更登記(いわゆる名変登記)についてですが、いままでは、登記名義人の表示が現在の正しい表示と合致しない場合でも、当該権利の登記は妨げられることなく、登記名義人は不利益を受けることはないとされていました。

実際の不動産登記法の条文でもこうなっています。

第64条

登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、登記名義人が単独で申請することができる。
2抵当証券が発行されている場合における債務者の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、債務者が単独で申請することができる。

しかし、当該権利の設定、移転、変更、処分の制限又は消滅について登記の申請をしようとする場合、名変登記がされていないと、申請情報の内容である登記義務者の表示が登記記録と一致していないとされ、当該登記申請は却下されてしまいます。

不動産登記法25条1項

登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。

7 申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十七条、第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)、第九十三条(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。

長期間にわたり名義変更登記が行われていない土地の中には、所有者が特定できない「所有者不明土地」となっているものも少なくありません。

こうした土地は、所有者を特定するために多大な時間や費用がかかることが多く、結果として土地の有効活用が妨げられる原因となります。

また、適切な管理が行われないことで、隣接する土地や地域全体に悪影響を及ぼすリスクも生じます。

このような問題は、地域の発展や環境整備にとって大きな課題となっています。

これらの課題を解決するために、令和3年の不動産登記法の改正により、令和8年4月1日から、住所等の変更登記が義務化され、不動産の所有者は、住所や氏名に変更があった日から2年以内にその変更をしなければならないことになりました。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00017.html

また、令和8年4月1日より前の変更であっても、変更の登記をしていない場合は、令和10年3月31日までに変更の登記を申請しなければならないとされました。

さらに一定の場合には登記官が職権で名変登記をすることも認められています。

それに伴い、令和8年4月1日施行の不動産登記法には、以下の条文が加えられています。

第76条の5

所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。

第76条の6

登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。

以下の部分では、私自身の試験勉強の復習と実務への予習もかねて、私が自分で学んできたいくつかの名変登記のパターンを書いていきます。

住所移転

登記の目的  〇番所有権登記名義人住所変更

原因     令和3年4月8日住所移転

変更後の住所 千葉県松戸市○○町1丁目3番地

申請人 千葉県松戸市○○町1丁目3番地 山田太郎

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報

登録免許税 金1000円

司法書士試験受験生にはなじみの登記です。

しかし、このいわゆる名変登記を落とす方は結構多いですよね。

この名変登記については、他にもいろいろなパターンがあります。

住所移転、住居表示実施

登記の目的  〇番所有権登記名義人住所変更

原因     令和3年4月8日住所移転令和4年3月13日住居表示実施

変更後の住所 千葉県柏市○○町1丁目3番6号

申請人 千葉県柏市○○町1丁目3番6号 高橋一郎

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報、非課税証明書

登録免許税 非課税(登録免許税法5条4号)

これは令和3年4月8日に高橋一郎さんが住所移転をした後に、令和4年3月13日に住居表示が実施された場合です。

この場合、住所変更登記は、住所移転と住居表示実施をまとめてすることができます。

変更後の住所には、住居表示実施後の住所を記載します。

そして、司法書士試験受験生にとって大事なのは、これが「非課税」だという事です。

登録免許税法5条4号と根拠条文をしっかりと書くことが必要になります。

なお、実務の世界では、非課税であることを証明するために非課税証明書を添付するのだそうです。

所有権移転登記の固定資産税評価証明書と同じですね。

住所移転、住居表示実施、住所移転

さらに複雑なパターンとして、住所移転(令和元年8月23日)、住居表示実施(令和3年12月1日)、住所移転(令和4年3月1日)と連続してされた場合があります。

この場合の申請書は以下の通りです。

登記の目的  〇番所有権登記名義人住所変更

原因     令和3年12月1日住居表示実施令和4年3月1日住所移転

変更後の住所 千葉県船橋市船橋○○町4番地3号

申請人 千葉県船橋市船橋○○町4番地3号 佐藤次郎

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報

登録免許税 金1000円

この場合は、「年月日住居表示実施、年月日住所移転(最終のもの)」と記載していいのだそうです(登研381・87)

おそらく受験生の段階ではほとんどの方が知らないと思います。

私も試験後に勉強をして初めて知りました。

登録免許税は金1000円です。

地番変更、住所移転

また、現実にありそうなのが、地番変更(令和2年1月8日)後に住所移転(令和3年4月8日)をした場合です。

登記の目的  〇番所有権登記名義人住所変更

原因     令和3年4月8日住所移転

変更後の住所 千葉県松戸市○○町1丁目3番地

申請人 千葉県松戸市○○町1丁目3番地 山田太郎

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報

登録免許税 金1000円

この場合、登記原因は「年月日住所移転」となります。

申請書の記載は、結果的にですが、通常の住所移転登記と同じです。

この場合の登録免許税は、金1000円です。

行政区画の変更による町名変更(地番変更あり)

地番変更がない場合は、申請が不要とされています。

一方で地番変更がある場合は、申請が必要になります。

登記の目的  〇番所有権登記名義人住所変更

原因     令和5年6月1日町名地番変更

変更後の住所 千葉県松戸市○○町4丁目5番地

申請人 千葉県松戸市○○町4丁目5番地 山本三郎

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報 非課税証明書

登録免許税 非課税(登録免許税法5条5号)

これ伊藤塾の答練で、住居表示実施において地番変更があった場合の問題として同じようなものが出た記憶があります。

この場合は変更登記が必要となります。

なお、非課税証明書も必要になります。

数回にわたり持分を取得したが、登記した住所が異なる場合

例えば甲区1番にAの所有権保存登記があり、甲区2番でBに持分2分の1が移転し、その後住所変更を下も小野の、甲区2番の住所変更登記をしない間に、甲区3番でAの持ち分が全部Bに移転し、さらにその後Bが住所移転をした場合の事です。

ちょっと面倒ですよね…。

この場合は例えば甲区2番の住所が千葉県松戸市であり、甲区3番のBの住所が千葉県船橋市であったとしても、Bは現在の住所(例えば千葉県柏市)に変更できるのだそうです(Q&A権利に関する登記の実務XⅢ)。

登記の目的  2番3番所有権登記名義人住所変更

原因     令和3年4月8日住所移転(最後の住所移転日)

変更後の住所 千葉県柏市○○町1丁目3番地

申請人 千葉県柏市○○町1丁目3番地 B

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報

登録免許税 金1000円

こんな感じだと思います。

ただ、Bの住所変更の原因が住居表示実施だった場合は、一括申請ができないのだそうです。

これについてはQ&A権利に関する登記の実務XⅢでは、甲区2番の登記原因が「年月日住所移転年月日住居表示実施」なのに対し、甲区3番が「年月日住居表示実施」となり、登記の目的は同じであるが、登記原因及びその日付が異なるためとされています。

難しいですよね…。

実務でこういったことに遭遇することはあるのでしょうか?

共有者全員に住所移転があり、最終の移転場所と移転日が同一の場合

先ほどのケースと少し異なる問題です。

甲区2番に共有者Aの千葉県船橋市船橋○○町2番1号の登記があり、甲区3番に共有者Bの東京都葛飾区金町○○町3番1号の登記があったとします。

その後Aは千葉県松戸市五香〇丁目1番3号に住所移転をしたのですが、登記はそのままでいたところ、AB両名が、令和6年8月21日に千葉県柏市南柏〇〇町4番1号に住所移転をしたとします。

この場合は、同一の申請書で登記名義人住所変更登記ができるのだそうです。

結果としてはこんな感じでしょうか?もし間違っていたら教えてください。

登記の目的  2番3番所有権登記名義人住所変更

原因     令和6年8月21日住所移転

変更後の住所 共有者A,Bの住所 千葉県柏市南柏○○町4番1号

申請人 千葉県柏市南柏○○町4番1号 B

    千葉県柏市南柏○○町4番1号 C

添付情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報

登録免許税 金1000円

今回のまとめ

名変登記ってよくあるんですよね。

しかし、いろいろと調べていると本当に奥が深いです。

それに、自分でいろいろと調べて書くと、知識が深まるので本当に役に立ちます。

やはりいい実務家になるためには勉強が必要だという事なのでしょう。

しっかりと勉強して、信頼される司法書士になれるように頑張りたいと思います。

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