中小企業の取締役の任期をどう定めるか。これは、定款の設計だけでなく、登記のタイミングや信用面にも関わる重要なテーマです。
この記事では、司法書士・行政書士栗栖英俊が、実務の視点から「任期は何年にすべきか」「登記はいつ必要か」などの疑問にお答えします。
✅この記事でわかること
・中小企業の取締役任期は法律上どう定められているのか
・任期を「10年」にすることの思わぬリスク
・任期満了時の登記のタイミングと必要書類
・定款における任期の記載で注意すべき点
1. 中小企業の取締役任期は何年にすべき?
会社法では、取締役の任期は原則として「選任後2年以内」と定められています(会社法第332条第1項)。
ただし、取締役会を設置していない非公開会社(≒中小企業)であれば、定款の定めにより最長10年まで任期を延長することが可能です(同条第2項)。
2. 10年任期は本当におすすめ?~リスクに要注意
登記の手間や費用を避けるために、「任期は最長の10年にしよう」と考える中小企業も多いですが、注意が必要です。
🔻 銀行・取引先から“活発でない会社”と思われるリスク
例えば、任期を10年にして変更登記を一切行っていないと、登記簿上では「10年間ずっと何も変わっていない会社」に見えてしまいます。
その結果、
- 銀行融資の審査で「実質動いていない会社?」と見られる
- 取引先から信用調査を受けた際にマイナス評価になる
といった不利な状況を招く恐れがあります。
また、取締役が複数いてそのうちの一人と意見が合わなくて解任しようとした場合、損害賠償請求をされる可能性もあります(会社法339条2項)。

長ければ長いほどいいというものではないので注意してください
3. じゃあ2年がベスト?会社の実情で判断を
一方で、「上場企業のように2年にすべきか?」というと、それも一概には言えません。
非公開会社であれば、ある程度長めの任期にすることで、
- 株主総会や登記の頻度を抑えられる
- 経営者が変わらない安定経営を示すことができる
というメリットもあります。
つまり、任期の設定は「会社の置かれた状況+対外的な見え方」のバランスで考えることが重要なのです。


4. 任期満了時は必ず登記が必要|2週間以内に申請
取締役が再任された場合であっても、「任期満了による再選」は“変更”とみなされるため、必ず登記が必要になります。
✅ 任期満了 → 再任 → 登記必要
✅ 任期満了 → 新任 → 登記必要(さらに退任登記も必要)
【申請期限】
任期満了の日から2週間以内に法務局へ登記申請が必要です。



特に退任登記は注意が必要です。
忘れないでくださいね!
5. 新任がある場合は「退任登記」とセットで行う
任期満了により新たな人物が取締役に就任する場合は、
- 退任する取締役の「退任登記」
- 新たに就任する取締役の「就任登記」
この2つを同時に行う必要があります。
6. 登記を怠ると過料のリスクも
任期満了による変更登記を放置すると、登記懈怠(とうきけたい)として、最大100万円の過料が科される可能性があります。
また、登記が放置されている会社は、融資や補助金審査でマイナス評価となることもあります。
7. 登記に必要な書類とサンプル【主な必要書類】
主な必要書類としては以下のようなものがあります。
- 定款(不要な場合あり)
- 株主総会議事録
- 就任承諾書
- 印鑑届書
- 委任状
📄 登記申請書のサンプル(任期満了・新任あり)
私は登記申請の時には、「登記ねっと」にある申請用総合ソフトを利用しています。
最初は戸惑いましたが、意外にこれが使い勝手がいいんですよ。
申請用総合ソフトで作成した登記申請書のサンプルを示してみました。
今回代表取締役は取締役の互選で選ぶ旨の定款の定めがある場合で、代表取締役でない取締役が退任及び就任した場合です。
登記の事由 取締役の変更
登記すべき事項 別紙のとおり
登録免許税額 金10,000円(資本金の額が1億円以内の会社)
添付書類 株主総会議事録
株主リスト
就任承諾書
印鑑証明書
委任状
※ 重要な部分だけを記載しています
別紙(登記すべき事項)
「役員に関する事項」
「資格」取締役
「氏名」山田太郎
「原因年月日」令和○年○月○日退任
「役員に関する事項」
「資格」取締役
「氏名」法務一郎
「原因年月日」令和○年○月○日就任
定款の添付について
定款所定の任期が満了した場合には,原則として,任期満了の時期を明らかにするために,定款および定時株主総会議事録を添付することとされています。
もっとも、株主総会議事録に任期満了により退任した旨が記載されている場合には,定款を添付する必要はありません。
第○号議案任期満了に伴う取締役改選の件
議長は、当社定款第○条の規定により、本定時総会終結の時をもって取締役山田一郎が任期満了し退任することになるので、新たに後任として代表権を有しない取締役の選任が必要である旨を述べ、その選任方法を諮ったところ、出席株主中から議長の指名に一任したいとの発言があり、一同これを承認したので、議長は下記のものを指名し、これらの者につきその可否を諮ったところ、満場異議なくこれに賛成したので、下記の通り選任することに可決確定した。
取締役 法務一郎
なお、被選任者は席上その就任を承諾した。
今回のパターンでしたら、議事録にこのように記載しておけばいいでしょう。
8. よくある質問(FAQ)
Q. 任期を10年にしていたが、満了後登記していない。今からでも大丈夫?
→ はい、遡っての登記は可能です。できるだけ早く対応しましょう。
Q. 何度も同じ役員を再任しているが、その都度登記が必要?
→ 必要です。再任でも任期満了により登記義務が発生します。


📝 まとめ:法律+実務+対外評価をふまえて任期を設計しよう
- 任期は2年〜10年の範囲で定款に定められる
- 10年任期は登記の負担を減らせるが、信用面でマイナスになることも
- 任期満了時は必ず登記が必要。新任があれば退任登記も同時に行う
- 定款を見直し、自社の実情に合った任期設定をすることが重要
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