令和6年度司法書士試験択一 午前の部(7問目か9問目まで)

今回は令和6年度司法書士試験択一午前の部の7問目から9問目までです。

これは試験の解説をするものではありません。詳しい解説を知りたい方は、各予備校の出している年度別過去問か、択一過去問集を参照することをお勧めします。

目次

第7問

この問題はそれほど難しくないですよね。

アについては、過去問でもよく出ています。

第186条【占有の態様等に関する推定】

① 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

② 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

186条1項そのままですよね。アは不正解。

イは悪意の占有者についての問題ですが、これも条文を知っていれば大丈夫です。

第190条【悪意の占有者による果実の返還等】

① 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。

② 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

190条1項そのままですね。イは不正解。

ウも条文そのままです。

第191条【占有者による損害賠償】

占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。

191条但し書きを見てください。そのままですよね。これは正解です。

次はエですが、これも条文そのままです。

第189条【善意の占有者による果実の取得等】

① 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。

② 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

本試験で問題を解いた時のキーになる肢が、このエの肢だと思います。

この肢は何度も過去問に出ているので、すぐに間違いと判断しなければいけません。

最後にオの肢です。この肢も有名ですよね。ちなみに、この肢は正解です。

これは昭和53年3月6日の判例です。

一〇年の取得時効の要件としての占有者の善意・無過失の存否については占有開始の時点においてこれを判定すべきものとする民法一六二条二項の規定は、時効期間を通じて占有主体に変更がなく同一人により継続された占有が主張される場合について適用されるだけではなく、占有主体に変更があつて承継された二個以上の占有が併せて主張される場合についてもまた適用されるものであり、後の場合にはその主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点においてこれを判定すれば足りるものと解するのが相当である。

この判例では、占有が承継された場合、後の占有者が悪意・有過失の場合であっても、前の占有者が善意無過失であれば、前の占有者から始まる10年間の占有で時効取得できるとされました。

また、この問題とはかかわりないのですが、前の占有者が悪意・有過失の占有者で、現在の占有者が善意無過失の場合は、現在の占有者の占有のみを主張できることも大事ですよね(占有の二面性)。

この問題の解法

ほとんど難しい肢がないので、すべての肢を検討するのも問題ないと思います。さほど時間がかかるものでもないですし…。私も本試験の時はそうしました。もともと、問題を解くスピードがかなり速いので…。

消去法でやるのであれば、エが間違っていて、オが正解なので答えは4番となるはずです。

全肢検討をするかたも、消去法はマスターしたほうがいいです。

すべての肢を確実に判断できるわけではないですし、問題を解いた後の見直しで使うことができますので…。

第8問

この問題は少し焦りました。

すべて条文なのですが、受験生の中でこの条文すべてをしっかりと覚えている方はいなかったのではないでしょうか?

もしいたらすごいですね。

私はこの問題を解いた時、オについては間違っているとすぐにわかりました。

これは有名ですよね。敷地に入るのはいいのですが、住居に承諾なく入ることはできません。

念のため、民法209条1項をご覧ください。

第209条【隣地の使用請求】

① 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。

一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕

二 境界標の調査又は境界に関する測量

三 第233条第3項の規定による枝の切取り

常識的に考えても、いきなり隣の方が無断で家の中に入ってきたら「なんだお前!」ってなりますよね。

そういうことだと思います。

次に、エの肢なのですが、これは電気の供給についてですよね。

正直この部分は条文をあまり覚えていませんでした。ただ、模試や答練では出ていた記憶があるので何とか分かったという感じです。

普通に考えても、電気の供給というのは生活に必要なので、それを承諾を得ないとできないというのは、正直困ってしまいます。

だから、試験本番ではこれを間違っていると判断しました。

念のために条文を挙げておきます。

第213条の2 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない
4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。
5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

必要なのは「通知」です。

消去法でやるとこの時点で4番が正解となりますよね。

ただ、本試験は普段と違う要素が強いので、私はいつもほかの肢も検討します。

アの肢ですが、「堀の幅を勝手に変更されると水流が変わってしまうのでは?」と当時考えていました。

この考え方が正解なのかはわからないですが、道の幅にしても堀の幅にしても、個人で勝手に変更することはできないと思います。

そのため、この肢は正解だと判断しました。なんとなくといった感じですかね…。

次にイの肢ですが、これは過去問や答練の問題を解いて「承諾はいらない」と「漠然」と記憶していました。

ちなみに、これも条文です。

第二百二十一条 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
2 前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない

水を通過させることができないと、周辺の敷地が水浸しになりますよね。そう考えると、逐一「承諾」を得る必要はないと考えられます。

そのため、この肢は「間違っている」と判断しました。

ウは条文なのですが、条文を覚えていなくても「恐らくそうだろうな」と判断できると思います。

222条1項の条文です。

222条1項
水流地の所有者は、堰せきを設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。

この問題を見てもわかるのですが、本試験では「これ何?」という問題があります。

ただ、すべての肢を確実に判断しなくても、一部を判断することで正解できる場合もあります。

自分の知らない問題が出てきた場合は、アから順番に検討することはやめて、「わかる肢はないかな」と探すことが大事だと思います。

問題作成者側も、すべての条文を記憶することは求めていないのですから…(おそらく)。

第9問

まず、普段から過去問を解きなれている方からすると、アとイについては容易に「正解」と判断できると思います。

また、エは間違っていますよね。これは法改正がらみです。

条文で確認しましょう。

第258条の2 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。

オは正解です。

第260条1項 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。

抵当権者は「共有物について権利を有する者」ですよね。

ウについては、問題文をよく読むことですよね。「限り」とあります。

別に限る必要はないので誤りです。

よって、ウとエが間違っているので4番が正解になります。

これも、試験によくある「限り」とか「のみ」という文言と、ちょっとした法改正がらみの論点を知っているかだと思います。

司法書士試験は法改正にかかわる問題がよく出るといわれています。

過去問演習は大事なのですが、法改正に関しては過去問には掲載がありません。そのため、答練(伊藤塾のでいい)と模試は合格するには必須なのではないでしょうか?

今日はここまでにします。

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