1. 非公開会社(閉鎖会社)とは?定義と特徴
株式会社は、**「非公開会社(閉鎖会社)」と「公開会社」**に分かれます。この区分は、株式の譲渡制限の有無によって決まります。
非公開会社(閉鎖会社)の定義
会社法上、「発行するすべての株式について、譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定め(会社法107条1項1号)を設けている株式会社」を非公開会社(閉鎖会社)といいます。
✅ ポイント:
- すべての株式に譲渡制限がある → 非公開会社(閉鎖会社)
- 一部でも譲渡制限がない株式がある → 公開会社
このように、「全部の株式」に譲渡制限があることが非公開会社の前提です。
中小企業の多くは、経営の安定性を保つため、非公開会社として設立されています。
非公開会社の特徴
- 株式の譲渡に会社の承認が必要 ⇒ 経営権の安定
- 少人数で機動的な経営が可能
- 取締役会や監査役の設置義務がなく、機関設計が柔軟
- 取締役の任期を最長10年に延長可能(会社法332条2項)
2. 株式会社の設立に必要な最低限の機関構造
株式会社の設立に必要な最低限の機関は以下のとおりです。
必須の機関
- 株主総会(最高意思決定機関)
- 取締役1名以上(代表取締役を兼ねても可)
✅ 監査役・取締役会は任意。これだけで株式会社は成立可能です。
そのため、一人会社や家族経営など、小規模企業にも適した構成です。
3. 非公開会社における柔軟な機関設計
非公開会社は、会社法上の特例により、以下のような柔軟な機関設計が認められています。
- 取締役会・監査役は任意設置
- 取締役の任期を最長10年まで延長可能(定款による。もっとも10年にすることのリスクは前の記事で述べています)
- 株主総会の招集期間も1週間前まででOK(定款による)
- 監査役の権限を**「会計に関するものに限る」**と制限可能
このように、経営の効率性とコスト削減を重視できるのが閉鎖会社の大きな利点です。
4. 会社の成長に応じて検討すべき機関設計の見直し
事業の拡大に伴い、組織内で以下のような課題が出てきます。
- 経営判断の迅速化と分業の必要性
- 内部統制の必要性
- 取引先・金融機関からのガバナンス評価の向上
このような場合、以下の機関の設置を検討します。
取締役会の設置
- 取締役3名以上+代表取締役の選定
- 重要事項を取締役会で決議し、業務執行と監督を分離
監査役の設置
- 経営に対する牽制機能を強化
- 会計処理の適正性の確保や法令順守体制の整備
✅ 規模や責任の範囲が広がるにつれて、**「機関の整備=経営の信頼性」**となります。
5. 公開会社への移行時に注意すべき点(取締役退任・定款変更)
非公開会社が、**株式の譲渡制限を廃止すると公開会社となり、会社法上の様々な制約が変わります。**その際、次の3点に注意が必要です。
① 取締役の任期が変わる(特例が消滅)
非公開会社では、定款により取締役の任期を
**「任後6年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」**と定めることが可能です(会社法322条2項)。
しかし、譲渡制限を廃止し公開会社になると、この特例は適用されず、
🔻「任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」という短い任期に戻す必要があります(会社法322条1項)。
✅ そのため、定款を必ず変更する必要があり、任期10年で選任されていた取締役は退任扱いとなり、再任の手続きが必要となります。
② 株主総会の招集期間を変更する必要がある
非公開会社では、定款により株主総会の招集通知期間を
**「1週間前まで」**とすることが可能です(会社法299条1項)。
しかし公開会社では、会社法299条1項により2週間前までの招集通知が必要です。
✅ よって、定款に「1週間前」と記載している場合は、「2週間前」に変更する必要があります。
③ 監査役の監査の範囲制限条項を削除する必要がある
非公開会社では、定款により
「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある」
という定めが可能です(会社法911条第3項第17号イ)。
しかし公開会社となると、監査役は業務監査権限を持つ必要があるため、この条項を廃止する必要があります。
④ 定款変更は必須手続きの一部
これらのほかにも、取締役会設置会社としての体制整備や、公告方法、役員構成の整備など、全体的な定款の見直しが必要になることが多いです。
📌 **公開会社化は単なる株式の自由化ではなく、会社法上の義務や制約が大きく変わるイベントです。
**専門家によるサポートのもと、定款の総点検と変更を行いましょう。
6. 機関設計のまとめ:中小企業が押さえるべきポイント
会社の段階 | 必要な機関 | 備考 |
---|---|---|
設立初期 | 株主総会+取締役1名 | 取締役会・監査役不要 |
成長段階 | 取締役会の設置検討 | 経営の分業・監督体制の整備 |
拡大段階 | 監査役の設置検討 | 信頼性向上・内部統制強化 |
公開会社化 | 取締役会+監査役必須 | 定款変更・任期見直しも必須 |
7. よくある質問(FAQ)
Q. 一人でも株式会社は設立できますか?
はい。株主1名・取締役1名でも設立可能です(いわゆる一人会社)。
Q. 取締役会は必ず必要ですか?
非公開会社では任意設置です。成長段階で必要性が高まります。
Q. 公開会社になると、役員はどうなりますか?
任期10年の特例が使えなくなるため、定款変更が必要です。また、その時点で取締役は退任扱いとなり、新たに選任することが必要になります。
終わりに:将来を見据えた機関設計を
非公開会社は、自由度の高い機関設計が可能で、スモールスタートに最適です。しかし、会社の成長や公開会社への移行を見据えるなら、段階的な体制の整備と定款の見直しが必須です。
登記手続き・定款変更など法務面でお困りの場合は、当事務所にお気軽にご相談ください。
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