なぜ「住所非表示措置」が求められているのか?
株式会社を設立したり、代表取締役が就任したりすると、代表者の「氏名」と「住所」は登記簿に記載され、誰でも取得できる登記事項証明書や登記情報提供サービスで閲覧可能となります。
しかし、近年ではその公開情報が悪用され、代表取締役の自宅への嫌がらせ、営業電話、ストーカー被害などのリスクが顕在化してきました。
このような背景を受けて、**プライバシーと安全性の確保を目的とした「代表取締役等住所非表示措置」**を利用する人が増えています。
本記事では、この制度の仕組み・申出方法・注意点までを詳しくご紹介します。
代表取締役等住所非表示措置とは?
「代表取締役等住所非表示措置」とは、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人(以下「代表取締役等」)の住所の一部(丁目以下の番地や号など)を、以下の登記書類や情報サービス上で非表示にすることができる制度です。
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)
- 登記事項要約書
- 登記情報提供サービス(インターネット閲覧)
これにより、登記情報においては「東京都港区」など市区町村レベルまでの表示にとどまり、詳しい住所は公開されなくなります。
制度の対象となる者
この非表示措置を申出ることができるのは、以下のいずれかの立場にある方です。
- 株式会社の代表取締役
- 代表執行役
- 代表清算人
代表取締役等住所非表示措置の要件と申出タイミング
■ 原則:登記申請と同時であること
代表取締役等住所非表示措置を希望する場合は、登記申請と同時に登記官に申出を行うことが必須です。
この「登記申請と同時」という要件は極めて重要です。登記完了後に単独で申出をしても措置を講じることはできません。
■ 申出が可能な登記の種類
- 代表取締役等の住所が登記される登記
- 会社の設立登記
- 代表取締役や代表執行役の就任登記
- 代表取締役等の住所変更登記
- 住所が変わらない場合でも申出が可能な登記(例外)
- 代表取締役または代表執行役の重任登記
- 管轄外への本店移転登記に伴い、新本店所在地で登記を行う場合
これらの登記は、代表取締役等の住所が変更されるわけではないため、登記簿上に新しい住所が記録されるわけではありません。
にもかかわらず、非表示措置を新たに講じることが「例外的に可能」であるというのが制度上の特徴です。
✅ 補足:
すでに非表示措置が講じられている者が重任や管轄外本店移転の登記を行う場合は、申出を改めて行わなくても措置は継続されます。
ただし、それまで措置を講じていなかった者が新たに非表示を希望する場合は、このタイミングで申出を行うことができます。
■ 本店移転をする際に代表取締役の住所変更措置をする際の注意点
管轄外本店移転をする際に、代表取締役の住所非表示措置をするには、新本店で代表取締役の住所非表示措置の申出をする必要があります。
しかし、管轄外本店移転とともに代表取締役の住所変更をする場合は注意が必要です。
例えば、旧本店で代表取締役の住所変更と本店移転登記を申請して、新本店で本店移転登記をする場合、代表取締役の住所非表示措置派の申出は旧本店でする必要があります。
なぜなら、新本店で代表取締役の住所非表示の申出をした場合は、新本店では、代表取締役の住所は非表示になりますが、旧本店の閉鎖登記簿では、住所変更をした後の代表取締役の住所が非表示にならずに記載されてしまうのです。
これだと、閉鎖登記簿を取得して代表取締役の変更後の住所を調べることができてしまいます。
それを防ぐには、旧本店で代表取締役の住所変更と本店移転の申請がなされると同時に、代表取締役の住所非表示の申出をする必要があります。
ちなみに、この場合だと、旧本店の閉鎖登記簿も「千葉県松戸市」などのように市町村までが表示され、新本店の登記事項証明書でも、代表取締役の住所は「千葉県松戸市」と市町村までが表示されることになります。
そのため、代表取締役のプライバシーをしっかりと守ることができます。
なお、それとは別に、管轄外本店移転の登記と、代表取締役の住所変更登記を別々に申請するやり方もあります。
ただ、面倒ですよね…。私は面倒くさがりなので一度で終わらせました。
申出方法と登記申請書への記載内容
申出を行う場合は、登記申請書に以下の事項を記載します:
- 代表取締役等住所非表示措置を希望する旨
- 対象となる者の「資格(例:代表取締役)」「氏名」「住所」
- 添付書面に関する情報(※実質的支配者リスト保管の申出がある場合はその旨)
オンライン登記の場合は、「その他の申請書記載事項」欄に記載します。
申出の際に必要な添付書面
必要書類は、会社が上場しているか否かによって異なります。
【上場会社の場合】
- 株式が上場されていることを確認できる書面
(金融商品取引所のウェブサイトの写しなど)
【非上場会社の場合】
以下の①~③すべての書類が必要です。
- 会社の本店実在性の確認書類
- 配達証明郵便の受領証など
- または登記申請代理人(司法書士など)による実在確認書 - 代表取締役等の住所を証明する書面
- 住民票の写し、戸籍附票の写し、印鑑証明書など - 実質的支配者の本人特定事項を証する書面
- 司法書士による確認記録の写し
- または公証人の認証を受けた供述書等
※すでに支配者リストの保管申出がされている場合や、特定の条件を満たす場合は一部添付を省略可能。
ちなみに、1の会社の本店実在性の確認ですが、私は実際に会社に出向いたこともありますし、「転送不要」の配達証明付きの書留を送付して確認したこともあります。
書留の送付の場合は、少し時間がかかるので、時間を考えると会社に出向くのが一番ですかね…。
措置が講じられた後の表示形式
非表示措置が講じられた場合、登記情報上の住所表記は以下のように変更されます:
(例)「東京都港区芝公園4丁目8番1号」→「東京都港区」
丁目以下の詳細な情報は記載されず、市区町村(東京23区の場合は区まで)で切られた表示になります。
私が代表取締役の住所非表示措置を申請して、終わったあとに確認した時、代表取締役の住所の部分が「東京都文京区」などと記載されているのを見た時、「今までと異なりかなりあっさりしてるな」と感じました。
代表取締役のプライバシーを守るという観点からは非常に大事ですよね!
措置の継続・終了
継続される場合(再申出不要)
- 住所変更のない重任登記
- 同一住所のままの管轄外移転登記(新登記所での登記)
ちなみに、この同一住所のままの管轄外移転登記ですが、これは私が先程申し上げた、旧本店で本店移転登記と代表取締役の住所変更登記を申請したときに、代表取締役の住所非表示措置の申出をした場合も該当します。
旧本店段階ですでに代表取締役は新住所に変更されているので、管轄外の新本店に移転した場合でも、新住所のまま住所非表示措置が継続されるということです。
私が実際に申請した登記を見てもそうなっています。
措置が終了する場合
- 非表示措置を希望しない旨の申出
- 本店の実在性が否定された場合
- 上場会社でなくなった場合
- 閉鎖された登記記録が復活された場合 など
措置が講じられていても住所が開示される場合
非表示措置は「一般公開防止措置」にすぎず、官公署からの請求や法令に基づく開示が必要な場合には、住所情報が提供されることがあります。
まとめ|プライバシーを守りつつ、実務上の影響も把握して選択を
代表取締役等住所非表示措置は、プライバシー保護と安全確保の観点から有効な制度です。
ただし、金融機関との取引や不動産登記など、住所の確認が求められる実務上の場面では不便が生じる可能性があるため、利用にあたっては慎重な検討が必要です。
申出の可否や添付書類の確認など、制度の適用について不安な点がある場合は、代表取締役の住所非表示措置の経験がある当事務所にご相談ください。
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