はじめに
遺言書を作成しようと考えるとき、まず思い浮かべるのが「法定相続分どおりに均等に分ければよいのではないか」という考えです。
確かに法定相続分は法律で定められた分配割合であり、公平に見える仕組みです。
しかし、遺言は「自分の財産をどのように分けるか」を自ら決めることができる制度です。必ずしも法定相続分どおりでなくてもよく、事情に応じて割合を変えることが可能です。
もっとも、法定相続分どおりでない遺言を作ると「なぜこのような分け方なのか」という不満や不公平感が生じ、相続人同士のトラブルにつながることもあります。そのようなときに大切になるのが「付言事項」です。
本記事では、司法書士の立場から、
- 遺言と法定相続分の関係
- 法定相続分どおりでない遺言の注意点
- 付言事項の役割と活用法
について、具体例を交えてわかりやすく解説いたします。
1.遺言書は法定相続分どおりでなくてもよい
相続の場面では、法律が定める「法定相続分」が基準になります。
▼法定相続分の一例
- 配偶者と子が相続人の場合
配偶者 1/2、子どもは残りを均等(2人なら各1/4) - 配偶者と両親が相続人の場合
配偶者 2/3、両親が1/3を均等 - 子どものみが相続人の場合
子ども同士で均等
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
- 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
- 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
- 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
- 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
しかし、遺言書を作成すれば、この法定相続分どおりでなくても構いません。
▼実際によくある事例
- 長男が家業を継ぐため、事業用資産を長男に集中させる
- 介護を担ってきた長女に多めの財産を残す
- すでに生前贈与を受けた子の取り分を減らす
- 配偶者の生活を守るため、ほとんどの財産を配偶者に残す
このように、遺言によって「誰に・何を・どれだけ渡すか」を自由に決められるのが大きな特徴です。
ただし「遺留分」を侵害する内容の遺言は、後に相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人に保障された最低限の取り分のことです。自由に決められるとはいえ、この点だけは注意が必要です。
2.法定相続分どおりでない遺言のリスク
法定相続分どおりでない遺言を作成すると、相続人同士の間に「不公平感」が生まれることがあります。
▼想定される不満
- 「母は長女ばかりを優遇している」
- 「父は生前から兄ばかりをかわいがっていた」
- 「どうして自分の取り分が少ないのか理由がわからない」
こうした気持ちは、たとえ法律的に正しい遺言であっても、感情面での対立を生みやすくなります。実際に、家庭裁判所での調停や訴訟に発展するケースも少なくありません。
相続においては、法律だけでなく「気持ちの納得感」が大変重要です。そこで大きな役割を果たすのが「付言事項」なのです。
3.付言事項とは?その役割
付言事項とは、遺言書の中で自由に書くことができる「遺言者の思い」や「財産分けの理由」を記した部分のことです。
法律上の効力はありませんが、相続人に対して遺言者の意思を伝える重要な手段となります。
▼付言事項の具体例
- 「長年にわたり私の介護を担ってくれた長女に感謝を込めて、長女には自宅を相続させることにしました。」
- 「長男には生前に住宅資金として援助をしたため、今回の遺言では取り分を少なくしています。」
- 「相続人全員が互いに助け合い、争うことなく仲良く暮らしていってほしいと願っています。」
こうした言葉が添えられているだけで、相続人は遺言者の思いを理解しやすくなり、不公平感を和らげる効果があります。
4.付言事項を記載するメリット
付言事項を記載するメリットは大きく、特に法定相続分どおりでない遺言の場合には欠かせません。
メリット1 相続人の納得感を高める
理由がわかれば、不満を抱きにくくなります。「自分は軽視された」と感じにくくなるのです。
メリット2 相続トラブルを防ぐ
付言事項は法的拘束力はありませんが、家庭裁判所の調停でも「遺言者の意思を推し量る材料」として考慮されることがあります。結果として争いを回避しやすくなります。
メリット3 遺言者の思いを後世に残せる
単なる財産分配の指示だけではなく、家族に対する感謝や願いを伝えることができます。これは金銭以上の価値を持つこともあります。
まとめ
遺言書は、必ずしも法定相続分どおりに作成しなければならないものではありません。遺留分を侵害しない範囲であれば、遺言者の意思に従って自由に割合を決めることができます。
ただし、法定相続分どおりでない遺言を残すと、相続人同士の不満や感情的対立につながるリスクがあります。その際に重要なのが「付言事項」です。
付言事項は法律上の拘束力こそありませんが、相続人に遺言者の思いを伝える大切なメッセージになります。相続トラブルを防ぎ、円満な手続きを実現するためにも、遺言書にはぜひ付言事項を記載することをおすすめします。
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