遺言書を作成する際、「遺言執行者を選任する必要がありますか?」というご質問をいただくときがあります。
実は、遺言執行者がいるかどうかで、遺言の実現度や相続手続の円滑さは大きく変わることがあります。
本記事では、遺言執行者の役割や必要性、誰を選任すべきかなどを、司法書士の視点からわかりやすく解説します。
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、実際の手続きを行う法的な代理人です。
民法第1012条では「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と定められており、遺言書に書かれた内容を具体的に実行する中心的な役割を担います。
遺言執行者の主な業務
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 預貯金の解約・分配
- 相続人以外への遺贈の実行
- 相続人の廃除や認知の手続き
- 財産目録の作成と提示(義務)
遺言執行者が「必要な場合」と「不要な場合」
✅ 法律上、遺言執行者の選任が必要なケース
以下の内容は、遺言執行者のみが執行できる事項とされており、遺言書にこれらが含まれているにもかかわらず遺言執行者が指定されていない場合には、家庭裁判所での遺言執行者選任が必要となります(民法1010条)。
- 子の認知(民法781条2項)
- 推定相続人の廃除またはその取消し(民法893条・894条)
- 一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律52条2項)
✅ 実務上、遺言執行者を指定した方が望ましいケース(法的には不要)
以下のような事項は、遺言執行者がいなくても相続人などによって執行可能ですが、遺言執行者を指定しておくことで手続きがスムーズに進むケースが多いため、実務上は指定しておくことが推奨されます。
- 遺贈(特に特定の財産を第三者に与える場合)
- 信託の設定
- 「相続させる旨の遺言」(特定財産承継遺言)による遺産承継
- 遺産分割方法の指定
- 祭祀主宰者の指定
- 保険金受取人の変更
✅ 遺言執行者の選任が不要なケース
以下のような状況では、遺言執行者をあえて指定しなくても、遺言内容の実現が可能なケースがあります。
- 相続人同士の関係が良好で、法定相続分どおりに分ける内容の遺言
- 遺言の内容がシンプルで、現金や預貯金のみの構成である場合
- 相続人全員が協力的で、自分たちで必要な手続を滞りなく進められる状況にある場合
ただし、将来的な関係性の悪化や手続きの煩雑化を避ける意味でも、少しでも不安がある場合は遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
相続人が遺言執行者になる場合
信頼できる相続人がいれば、遺言執行者に指定することも可能です。
ただし、執行者としての責任は重く、遺産目録の作成や、相続人への定期的な連絡などやることは多岐にわたります。
第1011条【相続財産の目録の作成】
① 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
② 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
手続きに不慣れな方にとっては大きな負担になることもあります。
専門家に依頼した方がよいケース
相続人同士で利害関係や感情的な対立が予想される場合や、相続財産が不動産・預貯金・株式など多岐にわたる場合、または第三者への遺贈が含まれているようなケースでは、司法書士などの専門家に遺言執行を依頼することが推奨されます。
「うちは家族仲がいいから大丈夫」と思っていても、財産の分配内容に不公平感があると、思わぬトラブルに発展することがあります。
そうなると、相続人全員の印鑑を集めるだけでも大きな負担となり、遺産整理が進まないという事態にもなりかねません。
司法書士に依頼すれば、不動産の登記や金融機関の手続きまで、専門的かつ中立な立場で一括して対応することができます。
スムーズかつ確実に相続手続きを進めるためにも、専門家の関与をご検討ください。
遺言書にどう書くべきか
相続人が遺言執行者になる場合の書き方
遺言書に遺言執行者を記載する場合は、以下のように明確に記載しましょう。
第○条遺言者は、遺言者が有する下記の不動産を遺言者の長男山田一郎(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
(省略)
第○条遺言者は、遺言者の有する下記の預貯金を妻山田幸子に相続させる。
第○条遺言者は、この遺言の遺言執行者として、前記山田一郎を指定する。
記載する際には、氏名・住所などを明記し、複数名指定する場合はそれぞれの権限や代表者を明確に定めておく必要があります。
遺言書に指定がない場合は、家庭裁判所に選任申立てをすることも可能です。
第1010条【遺言執行者の選任】
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
相続人以外を遺言執行者に指定する場合
第〇条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
氏名 ○○○○(東京都中央区〇〇、司法書士、昭和53年8月9日生)
相続人以外を指定した場合、誰を指定したのか明確にするために、住所、職業、生年月日を記載します。
遺言執行者を指定した場合の注意点
遺言執行者を指定したら「それで終わり」というわけではありません。
遺言執行者に与える権限についての定める必要があります。
第〇条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
氏名 ○○○○(東京都中央区〇〇、司法書士、昭和53年8月9日生)
2 遺言執行者は、この遺言の執行のため、遺言者の有する不動産の登記手続、その他この遺言を執行するために必要な一切の行為をする権限(各手続又は行為をするに当たり他の相続人の同意は必要としない。)を有するものとする。
先程も申し上げたのですが、民法1012条1項には、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」記載されています。
そのため、遺言書に遺言執行者に与える権限について定めていなくても、遺言執行者は、遺言執行に必要な一切の行為をすることができます。
しかし、財産管理をめぐって、相続人の一部から「それは遺言執行者の権限ではないのではないか」といった異議が出されることがあります。
このような場合、銀行や証券会社などの金融機関では、相続人全員の同意が求められ、手続きが大幅に遅れてしまうことも少なくありません。
こうしたトラブルを防ぐためにも、遺言書の中で遺言執行者に与える権限を明確に記載しておくことが重要です。
まとめ|遺言執行者は遺言を実現するキーパーソン
遺言執行者は、遺言書の内容を確実に実現するための重要な役割を担います。
「親族だから大丈夫」と思っていても、手続きの煩雑さや感情のもつれによって相続が思うように進まないケースも少なくありません。
確実・円滑に手続きを進めたい場合は、専門家である司法書士に遺言執行者を依頼することをご検討ください。
当事務所では遺言執行者のご相談を承っております
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よくあるご質問(FAQ)
Q. 遺言執行者がいないと遺言は無効ですか?
A. 無効ではありません。ただし、内容によっては執行できない部分が出てくるため、遺言執行者の指定が推奨されます。
Q. 遺言執行者を後から変更できますか?
A. 遺言書を新たに作り直すことで変更可能です。公正証書遺言であれば比較的容易に行えます。
Q. 複数人の遺言執行者を指定できますか?
A. はい、可能です。ただし、それぞれの権限や代表者を明確に定めておかないと、かえって混乱を招く場合があります。
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