はじめに:取締役が死亡したとき、会社がまずやるべきこととは?
突然、会社の取締役が亡くなった――。
中小企業では、取締役が1人だけで代表取締役を兼ねているケースも多く、こうした場合、会社の機能が一時的に完全停止状態に陥ってしまうおそれがあります。
「代表者がいない」状態になってしまった会社がまず取り組むべきは、役員変更登記の申請です。
本記事では、取締役会非設置会社における「取締役の死亡」に伴う法的手続きについて、司法書士の視点からわかりやすく解説します。
取締役の死亡=当然退任|登記が必要な理由とは?
会社法上、取締役の死亡は当然退任(任期満了や辞任と同様の扱い)とされ、株主総会での承認手続き等は不要です。
もっとも、取締役及び代表取締役の死亡による退任登記をせず、死亡した取締役(代表取締役)の登記をそのままにしておくことは以下のようなリスクがあります。
- 登記簿上は「死亡した取締役」が在任している状態となり登記簿が実態を反映していない
- 金融機関や取引先に不信感を与える
- 登記義務違反として過料(10万円以下)の対象になることも
したがって、会社としては、死亡した取締役の退任登記を2週間以内に行う必要があります。
代表取締役が1人しかいない会社では注意|株主総会の招集ができない!?
取締役会非設置会社に多い「取締役1名=代表取締役1名」という体制では、その唯一の取締役が死亡すると代表権も消滅します。
通常、株主総会は取締役が招集しますが、この場合は「招集権者がいない」ため、次のような問題が起きます:
- 新しい取締役を選任する株主総会を開けない
- 会社の意思決定が完全にストップ
- 登記も含めた事業運営が麻痺状態
こうした状況における解決方法は2つあります。

①株主全員の同意があれば、招集手続きを省略できる
第300条本文により、株主全員が同意していれば、正式な招集手続きを省略して株主総会を開催することが可能です。
第300条
前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。
これにより、新たな取締役を速やかに選任し、会社機能の回復につなげることができます。
✅ ただし、「全員の同意」が必要なため、株主の人数や関係性によっては調整が難しい場合もあります。
②株主総会が開けない場合は「仮取締役の選任」を申し立てる
株主間の同意が得られない、または連絡がつかない場合は、利害関係人は裁判所に仮取締役の選任を申し立てることになります(会社法第346条2項)。
裁判所が選任を認め、仮取締役が株主総会を招集して、新しい取締役(代表取締役)を選任することで、会社運営の再起動が可能になります。
🧑⚖️ ただし、裁判所への申立てには時間と手続きが必要なため、可能であれば「株主全員の同意による株主総会開催」が望ましい対応です。
一人株主の場合の難しさ
余談ですが、本当に大変だと思うのが、一人会社で、株主が取締役(代表取締役)を兼ねる場合です。
この場合、株主たる地位は相続人に相続されるのですが、法定相続分で相続された場合、持分が2分の1ずつだと互いに過半数になりません。
そうなると、互いの同意が得られて株主総会を開き取締役を選任できたとしても、その後の会社経営では非常に難しい状況になる場合もあります。
そうならないように、一人株主の方は、後継の取締役のことだけでなく、株式をだれに相続をさせるかなどの、事前の対策をしっかりとることをお勧めします。

必要書類|死亡による取締役の退任登記の場合
死亡による取締役の退任登記は、「自然退任」であるため、必要書類は少なめです。
一つ一つ示していきます。
登記申請書
書類名 | 内容・補足 |
---|---|
登記申請書 | |
死亡の事実を証する書類 | 戸籍謄本・除籍謄本・死亡届など、死亡日が明記されたもの |
委任状 |
※株主総会決議自体が存在しないため、株主総会議事録は不要です。
「戸籍謄本や除籍謄本は公的機関が発行するからわかるけど、死亡届はどう書けばいいかわからない」という方がいるかもしれません。

そういう方のために簡単なサンプルをお付けします。
死亡届
山本一郎は、令和7年○月〇日に死亡しましたので、お届けいたします。
令和7年〇月〇日
東京都文京区○丁目○番地〇号
長男 山本 健一 ㊞
株式会社 △△御中
※死亡届に押す印鑑は認印で構わないとされています。
登記の期限と過料|放置するとどうなる?
登記申請の期限は、死亡を知った日から2週間以内です(会社法第915条)。
これを過ぎると、10万円以下の過料が科される可能性があります。
「うっかり忘れていた」「誰も知らなかった」では済まされないため、できるだけ早めの対応が必要です。
まとめ|登記だけでなく、迅速な会社再建がカギ
取締役が死亡した場合、会社としては単に登記をすればよいというものではありません。
取締役と代表取締役が一人しかいない会社では、その方がお亡くなりになられた場合、会社機能は一時的に停止することになります。
そのため、会社機能を迅速に回復する必要があります。
そして、会社機能を迅速に回復するためには、新しい取締役(代表取締役)を速やかに選任する必要があります。
法的手続きを迅速かつ確実に進めることが、会社と従業員、取引先を守ることにつながるということを意識してください。
よくある質問(FAQ)
- 死亡した取締役が代表取締役でした。すぐに新しい代表を選べますか?
-
株主全員の同意が得られれば、招集手続を省略して株主総会を開き、取締役および代表を選任できます。難しい場合は仮取締役の選任が必要です。
- 死亡による退任登記は、なぜ必要なのですか?
-
死亡による退任であっても、2週間以内の登記義務があり、放置すると過料の対象になります。
- 死亡による退任の登記だけをすればいいのですか?
-
単に死亡による退任の登記をすると、取締役がいなくなってしまいます。株式会社は取締役がいなければいけないので、新しい取締役を選任し、その就任登記と一緒に死亡による退任の登記をしてください。
- 誰も登記手続をできる人がいません。どうしたら?
-
裁判所に仮取締役の選任を申し立て、その者が登記や株主総会の招集を行うことが可能です
- 死亡届に戸籍謄本などが利用できると聞いたのですが、配偶者が記載した死亡届ではダメですか?
-
必ず戸籍謄本を利用する必要はありません。配偶者の方が書いた死亡届でも大丈夫です。
- 私(配偶者)の書いた死亡届には実印を押す必要がありますか?
-
実印でなくて構いません。認印で大丈夫です。
- 役員変更の登録免許税は、どんな時も1万円なのですか?
-
資本金の額が1億円を以下の場合は1万円になります。資本金の額が1億円を超える場合は登録免許税は3万円になることに注意してください
お困りの際は、司法書士がサポートいたします
取締役の死亡は突然起こることが多く、代表取締役が1人しかいない会社では、その後の対応に頭を抱える方も少なくありません。
「誰が株主総会を開けるのか分からない…」
「登記しようと思ったが、何から手をつけてよいか分からない…」
そんな時こそ、専門家のサポートが必要です。
文京区湯島の【栗栖司法書士行政書士事務所】では、取締役の死亡に伴う役員変更の手続に対応しております。
東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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