【第1話】父から突然の指令。「抵当権抹消やれ」

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はじめに|司法書士試験合格後、私の進路は

司法書士試験に合格した直後、私は希望に満ちていました。

これからどんな道を歩んでいこうか──。
当初は、一般の司法書士事務所に就職して、実務経験を積むつもりでいました。
「現場で鍛えられることが、一人前の司法書士への近道だ」と考えていたのです。

しかし、そんな中で、流れは自然と変わっていきました。

父親のもとで仕事をすることを決意

私の父は、私が物心ついた頃から弁護士として活躍してきた人物です。
長年、法律の世界でキャリアを積んできた父の存在は、私にとって特別なものでした。

世間では「登記といえば司法書士」というイメージが強いですが、
実は、弁護士も登記申請業務を行うことができます(実際やる人はあまりいませんが…)。
特に相続事件や裁判関係で登記申請が必要となる場面があり、
父も過去に、所有権移転登記や更正登記を経験していました。

そんな父が身近にいる環境をふと思い返し、
「どうせなら、父の事務所で仕事を始めるのも悪くないかもしれない」
そう自然に思うようになったのです。

こうして私は、一般事務所への就職ではなく、
父の事務所に籍を置き、顧問的な立場に父を置くことで仕事を始めることを決めました。

初めて手にした「本物」の登記書類

そんな折、父から任された最初の仕事がやってきました。
「この抵当権、抹消してきてくれ。」

手渡されたのは、解除証書と登記済証。
これまで教科書や問題集でしか見たことがなかった「生の」登記書類に、私は思わず見入ってしまいました。

紙の質感、押印された実印、契印の丁寧な処理──。
そこには、机上の勉強だけでは伝わらない”現実の重み”がありました。

それでも、私は強い自信を持っていました。

──自分は司法書士試験に全国52位で合格した。
──実力には確かなものがある。
──抵当権抹消登記くらい、問題なくできるはずだ。

そう思いながら、手続きを進める準備を始めたのです。

父の事務所で動くため、司法書士登録を決意

ちょうどその頃、抵当権抹消登記の実務を進めるにあたり、
抵当権者側の会社と連絡を取り合ったり、書類の調整を行う必要があることがわかってきました。

本来であれば、司法書士登録はもう少しゆっくり進める予定でしたが、
「父の事務所で実際に登記案件に関わる以上、正式に司法書士登録を済ませるべきだ」と考え直しました。

抵当権抹消登記の案件が、私の登録を後押しする形となり、
私は予定よりも少し早く、正式に司法書士登録を済ませることになったのです。

しかし、この時はまだ知らなかった

これが、これから始まる”登記の世界”の、ほんの入り口にすぎなかったことを──。
抵当権抹消登記という一見シンプルな手続きの裏には、想像以上のハプニングと苦労が待っていたのです。

次回、第2話では、私が直面した最初の予想外の出来事についてお話しします。

(第2話へ続く)

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